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バスケはよく知らないが…

近所の映画館でスラムダンクがやっていたので見に行った。
田舎の映画館なので余裕で観られるだろうとたかを括ってギリギリに行ったら、ほぼ満席で危うく入れないところだった。
あんなに人が入っているのは滅多に観ないのだが……。
客層も特に原作を読んでいた人ばかりという雰囲気でもなく、老若男女偏りなくいてヒット映画の典型といった風情だ。
私も原作はほとんど知らず、連載のはじまった頃に少し読んでいたのでキャラクターの名前は多少判別がつくくらいの知識しかもっていない。
私なんぞが言うまでもなく面白い映画だったが、作りが変わっていたのでメモ的に記録しておく。

ネタバレ的なことも書くので読みたくない人は気をつけてください。

 

さて、冒頭は……なんせ地味だなと思う。
絵は素晴らしいものの華のある画面というわけではなく、あの二人が1オン1
をしているというだけで、原作知っている人であればエモいのかもしれないが、まずあの二人の関係が直ぐには分からない。
ポンとワンカット入る手洗い場の上に置かれたリストバンドの画が全編通して重要なアイテムになっているのだが、それも大して長く見せるわけでもなくサラッと映している。
直ぐにはわからない、というのはこの映画の特徴で監督の趣味でもあろうと思われ、とても良い効果を発揮している。
ここでリョータの名前は呼ばれるが、この映画の中で人物の名前が説明的に呼ばれることはない。
説明的に呼ばれることはない、というのはとてつもなく重要。
これも直ぐに分からなくても良い、という監督の明確な態度を示している。
普通、娯楽映画のシナリオであれば新しい登場人物が出てきたら、その瞬間か程なく名前を誰かに呼ばせてやる。
が、この映画ではそれを敢えてしていない。
それはスラムダンクだから原作がよく知られているから、それで良いという判断もあったかと思うが、説明的に名前を呼ぶことに対する拒否がハッキリと観て取れる気がする。
そして、映画が始まってしばらく音楽が鳴らない!
冒頭のムービングロゴの所にはギターが鳴ってるだけ…。
音楽と効果音、音の使い方は、この映画に特異な印象を付けている。
多分初めて劇伴が鳴るのは試合が始まってから(しかも大して盛り上げない)で冒頭のそれなりに長いドラマ部分は効果音だけで作られている。
これは効果さん的には相当に腕が問われるので、なかなかプレッシャーだと思うがよく出来ている。
効果音は全体に非常にいい仕事をしていた。
笠松広司さんの名前がクレジットされているので、よい音響の映画館で見ると随分印象が変わるかもしれない。
監督のインタビューをザッと読んだら音楽の付け方はお任せしたというような事を言っていたので笠松さんが音楽ラインを基本決めたのではないかと思われる。
正確に記憶していないが音楽が使われているのは殆ど試合のシーンだったのではないか。
普通、平場の長いシーンなどでは情感の音楽を付けたくなるものだが、あえてやらないという判断だったのだと思う。
ドラマ部分では音楽で情感、エモーションを盛り上げる様な事は絶対やらないという抑制の効いた態度は娯楽映画としては非常に勇気のいるものだと思うし、実際に来ている客層からすると見続けるのが辛くなるギリギリのところかなと感じた。

試合の間に回想が入る形で進んでいくというのも、話が分かりづらくなりがちなので娯楽としては非常に難しいが上手く見せられていたと思う。
リョータの縦軸の物語が原作を知らなくても他のキャラ含めキャラクターを魅力的に見られる様にしている。
初見の人でもキャラクターをある程度理解できるように回想を作っているのが面白いバランス。
ドラマは非常に抑制されていて玄人好みの日本映画といった風情だが娯楽的にもしっかり目配せされている。
それは前半はあっさりと終わっていく試合シーンの後半の見せ方で花開いていく。

後半の試合のシーンは、えげつない位に娯楽的な盛り上げを絵も音楽も達成していてラスト近辺の音楽の使い方はとにかくあざといし、ラストのシュートが決まった後の無音の長さも普通の人なら勇気がいる様な演出だが非常に効果的だったと思う。ドラマ部分の抑制が試合部分のあざとすぎる位のあざとさを際立たせていた。

ドラマ部分は本当に最後まで抑制が効いていて、人が何か成し遂げるには時間がかかるのだということを試合部分にも重なる様に描いていて非常に良かった。
エンドクレジットの後の画は監督の中に染みついた娯楽精神の表れで稀有なバランス感覚の持ち主だと思う。私が偉そうに言うまでもないが………。
見習いたいものです。

残された人間がどう生きるかというモチーフは「すずめの戸締まり」と同じなのだが見せ方が真逆で新海誠は非常に情動に訴えかける様な見せ方をしているのが好対象。たまたまだろうけど同じ様な時期に同じ様なモチーフが重なるのは何かを象徴している気もして面白い。

もう少し書けるけど疲れたのでこの辺で。
とにかく非常に面白かった。
こういうの書くときは自分のことは棚上げ……。

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